2009年11月15日日曜日

歌舞伎座11月公演: 忠臣蔵

昼夜で仮名手本忠臣蔵の通し狂言でした。11月10日に昼の部、15日に夜の部を見てきました。どちらも3階席だけど、花道の見得を切るあたりが少しは見えたのでよかった。

昼の部は、【大序】鶴ヶ岡社頭兜改めの場、【三段目】足利館門前進物の場、松の間刃傷の場、【四段目】扇ヶ谷塩冶判官切腹の場、表門城明渡しの場、【浄瑠璃】道行旅路の花聟 でした。
高師直が塩冶判官の妻、顔世御前に横恋慕して塩冶判官をいびり、松の廊下の事件が起こって、判官が切腹するまでのメインストーリーを、大星由良之助が城を明け渡すシーンでしめくくって、最後にお軽勘平の道行があります。高師直を富十郎、塩冶判官を勘三郎、由良之助を幸四郎という顔合わせ。
大序は初めて見ました。ゆっくりゆっくりと(47回のつけと共に)開く定式幕、義太夫で名前が出ると顔を上げてゆく俳優たち。かっこいい! また、足利直義の七之助がよかったです。おっとりと歩く姿がいかにも。大序から三段目で、むしろ温厚な判官に対して、梅玉演じる桃井若狭之助が血の気の多い役回りで今にも師直に切りかかりそうにまでなります。三段目までしか出てこないので、松の廊下の刃傷の後この人はいったいどう思ったのだろう……と、ちょっと気になっちゃうところ。魁春の顔世御前を含め、主なところはみなうまくて、舞台の使い方も見事で、さすが完成された芝居だな、と思いました。が、勘三郎はやっぱりもっと下世話で明るい話の方が好きだな~。幸四郎はあまりにぴったりで、言うことなし。この人はいまいち好きではなくて、時代物の立役だとこわすぎる気がするし、世話にくだけるにはえらすぎる気がするのですが、忠臣蔵はすごくぴったりきました(夜の部の平右衛門も)。

夜の部は、
【五段目】山崎街道鉄砲渡しの場、二つ玉の場、【六段目】与市兵衛内勘平腹切の場、【七段目】祇園一力茶屋の場、【十一段目】高家表門討入りの場、奥庭泉水の場、炭部屋本懐の場、引揚の場 でした。勘平を菊五郎、定九郎を梅玉、六段目のお軽を時蔵、由良之助を仁左衛門、七段目のお軽を福助、お軽の兄寺岡平右衛門を幸四郎という顔合わせです。
五段目、定九郎の苗字がだと初めて知って、塩冶家中の裏切り者家老斧九太夫の息子と判明。五段目から七段目のつながりはお軽勘平だけではなかったんですね。悪者は全部きれいさっぱり成敗されちゃうんだ、この芝居。勘平の出てくる段は悲劇そのものなのですが、中にいろいろとおかしさを醸し出すシーンがあって、笑いも出つつ堪能しました。芝翫のお才がいい味を出してました。さすがですねえ。歌舞伎を見てると、自分も煙管を吸ってみたくなります。そう言えば父方の祖父は吸ってたっけ。祖父の家には火鉢もあったっけ。なつかしい……。
楽しみにしていた七段目、いやあ堪能しました。仁左衛門はよいなあ。紫地に渋茶の裾まわしの紋付羽織(片脱ぎにしていて、羽織紐は白)の似合うことったら。お軽の福助がかわいらしくてとてもよかった。なんだか、福助はいつも自然に女性らしくて、見ていて違和感がなくていいです。それにしても仁左衛門がよかったなあ。
討ち入り以降は素直に劇を楽しみました。殺陣が見事。そして、引揚では、ずらっといならぶ義士たちがきちんと46人(勘平は死んでいるのでこれで勘定は合っている)いるのに感心。一緒に見に行ったるみちゃんが「馬の役が大変だね」としきりと感心してました。確かに、特に後ろ脚は大変だよね。忠臣蔵って、いっぱい人が死ぬけど、義士たちもこれから切腹だけど、すっきり明るい幕切れに大満足で帰ればいいんだなあ、と改めてなんだか感心したのでした。

2009年11月5日木曜日

新橋演舞場11月公演: 盟三五大切

通し狂言「盟三五大切」と舞踊「弥生の花浅草祭」でした。

舞踊はくわしくないのですが、「弥生の花浅草祭」は三社祭の山車にのった人形の踊りという趣向で、ふたりが4種類の踊りを踊り分けるというもの。変化があって素直に楽しめました。松緑愛之助がそれぞれ個性的で、3番目の通人と野暮大尽なんてあまりに対照的でおかしかった! 最後の石橋での毛振り、松緑がやたらぐるんぐるんと元気に回しててパワー全開でした。

盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」は、「東海道四谷怪談」で有名な鶴屋南北作。四谷怪談の後日談でもあり、忠臣蔵番外編ともなっています。さらに、当時流行っていたという五大力物でもあるという盛沢山なスプラッタ。五大力物というのは、実際にあった薩摩藩士による五人切り事件をモデルにした、「女に裏切られてカーッとなって大量殺人してしまうお話」のことだそうです。また、「五大力」とは江戸時代に女性が貞操の証として持ち物などに書いた言葉でもあります。

というわけでこのお芝居は、芸者小万に入れあげて身上をつぶし、さらに討ち入りの義士に連なるために用意した100両を小万の夫、三五郎にだましとられてしまい、挙句の果てに「お前こそ間男だ」とののしられて、カーッとなって5人切り殺したのに肝心の小万三五郎だけは取り逃がし、転居先まで追いかけて小万とその赤ん坊、乳母まで惨殺し、小万の首を前に食事を始めてしまうという、とんでもない殺人犯、薩摩源五郎の話なのです。が、そこで話は終わらない。お互い知らなかったけれど源五郎(実は不破数右衛門)は三五郎の父の主人でした。三五郎は父に勘当を解いてもらうため、主に必要な100両を調達しようとだましを働いたというわけ。それが判明して、三五郎は自害して源五郎の罪までかぶって死んでいきます。一方、源五郎は晴れて義士の一員となって仇討ちに加わるのでした。

いやあ、人が死にまくる。映画だとどうかと思いますが、どうも歌舞伎は人が死ぬほどおもしろくなります。……って、よく考えると「源五郎やばくない?」って話だよね。うーむ。源五郎が実は不破数右衛門って、忠臣蔵の中でも人気の義士だよね。勘平の切腹に立ち会うのもたしかこの人。うーむ、うーむ。……しかし、そこでよく考えてはせっかくの落ちが落ちません。最後でつじつまがあってくれてよかったぐらいに思うべきです鶴屋南北。とにかく陰惨な四谷怪談より好きかもしれません。ギミックはないけど。

さて、それで今回は源五郎を染五郎、三五郎を菊之助、小万を亀治郎という配役でした。とにかく、菊之助の三五郎がかっこよくって艶っぽくって、小万といちゃいちゃしているシーンとかすごかったです~。三役それぞれ見せ場があっていい芝居だと思うのですが、なんとも三五郎にやられました。ああかっこよかった。菊之助ってあんなにかっこよかったかなあ……もしかして、立役やったのをはじめて見たかもしれません。女形でもわりと好きでしたが、もうきゅーってなっちゃいました。
小万が(たぶん本当は三五郎のため?)五大力と腕に彫った彫り物を見て源五郎は自分だと思いこんでよけい舞い上がってしまうわけですが、後で三五郎が自ら三と七を彫り足して三五大切としてしまうくだりなんかもいいですね。ここで題名を思い出すわけです。「かみかけて三五大切」。なるほど!

運よく、今回は一階最前列のはじっこ(花道側)だったので、舞台上がよく見えるのももちろん、役者さんの後姿だの足元だのをたっぷり見れて、自分が着物を着るときの参考にもなりました。芸者や花魁が冬でも裸足なのは、素足の美しさを誇っていたからだそう。ええと、それはまねできないです……寒がりなもので。
それから、ひとつ書き忘れてました。花道の下から見上げた、小万の首をふところにかかえて帰る源五郎の顔。しーんと冷たく酔ったような、焦点の定まらない目で首を見つめてかすかにうれしげな笑みを浮かべてふらふらと行くその顔がものすごく印象的だったのです。きっと一生覚えてるだろうな……