2009年5月19日火曜日

キング・コーン

原題 "King Corn" 2009.6月半ばまで、渋谷のイメージフォーラムで上映中です。

米国(そして世界)はとうもろこしで回っている!という事実をつきつけてくる映画でした。
ドキュメンタリーを撮る監督は、どんな勝算を持って作品を作り始めるのかな、と、いいドキュメンタリーを見るたびに思います。湿っぽいのが嫌いで食に興味がある私は、基本的に感動が予想されるような映画は見ません。あるテーマを扱うのであれば、きちんとそれぞれの立場からの話を並べてほしい。もちろん、選択や並べ方に監督の意思は反映されるわけだけれど、その無色に近い中からこちらが主体的に監督の主張を見つけ出せるような作りだと、いいドキュメンタリーだと思います。しかし、難しいんだろうな。
以前に食を扱ったドキュメンタリーとしてすごくよかったのは「モンドヴィーノ」という、ワインをめぐるドキュメンタリー。ワインのグローバリズム代表とも言えるロバート・パーカー/ミシェル・ロランやボルドーの有名シャトーの人々と、テロワール(地味)を大切にするドマ・ガサックのエメ・ギベールなどの人々を平行して追っていくのです。それぞれが自分は正しいことをやっているんだ、いいワインを造っているんだという自信を持って語っています。でも、見ているこちらからすると明らかに軍配はテロワリスト側にあがります。ああいう風に、自信ありげに墓穴を掘るようなことを言わせるインタビュー術(なのか、うまく拾い上げる構成力なのか)はすごいなーと思っておりました(これはほんとにおすすめなので、本題と離れるけど最後にリンクはっておきました)。

さて、今回の「キング・コーン」も、とうもろこしの生産・流通・消費をめぐるさまざまな立場の人々の声を見事に拾っています。そして、作られたとうもろこしがどうなっていくのかがよく見えます。グローバリズム経済の今日、アイオワ州で作られたとうもろこしが世界中に影響を与えるからくりがすごくよくわかる。……そして、ファーストフードとか安売りの肉や加工食品を食べる気が失せていきます。プログラムで監督曰く「世界で最も退屈なテーマであるとうもろこし」が、ここまでおもしろく考えさせる素材だったとは! これから日本各地でやるようなので、少しでも食に疑問や興味のある人にはぜひぜひおすすめです。

中でもいくつか特に印象的だったことを挙げておきます。
・まずは、アメリカの農業の規模の大きさと画一化。とうもろこし農家なら、一人で千エーカーは当たり前、他の人の農地も請け負って何千エーカーも、とうもろこしだけ栽培しています。自家用なんて作りません。ひたすら売り物だけ。機械化も進み、装置の幅が30mもあるトラクターで、耕運も化学肥料や除草剤お財の散布も種まきも一気に終わります。小山のような大機械でした。しかも、作るとうもろこしのほとんどは直接人間の口には入らない原料用のデントコーン(もちろん農薬耐性のある遺伝子組み換え作物)。映画を撮った当時より現在はバイオ燃料としての使用量が多いはずなので、さらに人の口から遠ざかっているんですよね。そんな風に作っていたら自分の作物に愛を感じられないのは当たり前という気もしました。
・作られたとうもろこしの行き先のひとつが、家畜の飼料です。アメリカ牛っていうと、牧場で放牧された赤みの牛肉ってイメージがありますが、いまや正反対。狭い飼育場に詰め込まれてろくに動きもせず、(牛にとって)糖質の多すぎるとうもろこしを食べている牛の肉は、牧場育ちに比べて飽和脂肪酸の割合がとても高いとか。しかも病気になりやすいから抗生物質漬けです。飼育場に牛がいーっぱいいる画像は衝撃的でした……もうアメリカ牛食べれないよ。

他にも、農業政策(補助金の出し方とか)やら、コーンシロップ(ブドウ糖液糖など)の問題やら、気になるトピックが満載で、いろいろ書ききれません。とにかく、90分見た後にその何倍も考えさせられる、すっごくお得な映画だと思います。しかもおもしろいところがまたよし!

モンドヴィーノ [DVD]

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