2009年5月20日水曜日

クストリッツァ「ウェディング・ベルを鳴らせ!」

ウェディング・ベルを鳴らせ!」は東京を皮切りに全国で順次公開。詳しくは公式サイトで。

大好きなエミール・クストリッツァ監督の久しぶりの公開作に、期待にはちきれんばかりになりながら映画館に向かいました。えーと、しかしクストリッツァはとっても有名なんだけど、私が期待するほど有名ではないと思うので、本作の話の前に、少しクストリッツァ映画全般の話を。
クストリッツァはユーゴスラヴィア(現在はセルヴィア)出身の映画監督で、代表作はやっぱり「アンダーグラウンド」。本作の前に公開された長編映画は「ライフ・イズ・ミラクル」でした。このあたりの作品は第二次世界大戦以降のバルカンの歴史を斜めにぶったぎるような、力技の映画で、特に「アンダーグラウンド」は3時間近くをノン・ストップに走り抜ける感じがとんでもない名作です。えーと、クストリッツァ見たことない人は、とりあえずこれだけは見てほしいな。むかし、英国の映画評ではTragi-Comedy(悲喜劇)に分類されていましたが、確かに悲劇なのに思わず笑ってしまう、そして意識的に笑い飛ばしてしまうストーリーやエピソード、画面作りが、私には最高にぴったりくるのでした。
一方、クストリッツァには「黒猫白猫」という、これまた名作のコメディがあります。セルヴィアに住むロマ(ジプシー)たちを主人公にした、やっぱりとにかくエネルギー爆発の映画です。実は私が最初に見たクストリッツァ映画はこちらでした。とにかく素直に大笑いして楽しめるのだけれど、あとからちょっと深く考えてしまうようなところもあります。そこがまたいいんだなあ。
私はほとんどクストリッツァおたくなんですが、おたくとして見たところ(すなわち分析はしない)、クストリッツァ作品にはいくつか共通の要素があります。たとえば、浮遊(空を飛ぶ)のモチーフ。「ジプシーのとき」や「アンダーグラウンド」の花嫁、「アリゾナ・ドリーム」の魚や娘などが印象深いのですが、それぞれイメージも内包する意味も少しずつ異なるように思います。あ、「ライフ・イズ・ミラクル」のベッドも飛んでたなー。また、動物が大量に登場するのもクストリッツァらしさ。「黒猫白猫」には猫はもちろん、何でも食べる豚、アヒルの群れなどが登場。「ライフ・イズ・ミラクル」のロバも印象的でした。そしてもちろんクストリッツァ映画には音楽も欠かせません。「アンダーグラウンド」までは主にゴラン・ブレゴヴィッチが担当の東欧っぽい音が中心で、特にジプシー・ブラスの超高速演奏はもう最高。たいてい、映画の筋とあんまり関係ないのにブラスバンドのおじちゃんたちが画面にも登場して演奏しまくるのです。「黒猫白猫」以降になると、クストリッツァ本人も(一応?)参加しているノー・スモーキング・オーケストラが音楽を担当しています。やっぱりジプシーっぽさ、バルカンっぽさを持ちながらよりロックでポップになってるかな。息子のストリボール・クストリッツァがドラムをやることも。

というわけで、そんなクストリッツァ監督の「ウェディング・ベルを鳴らせ!」は、前評判からも「黒猫白猫」系の楽しい映画だと言われていましたが、確かにその通り。2時間半ほとんど笑いっぱなしで、またさらにクストリッツァ大好きになってしまいました。主人公ツァーネは田舎に祖父とふたりで住む少年で、嫁さがしに都会に出ます。彼が好きになった女の子ヤスナは街を仕切るマフィアに狙われていて…なんていう、とってもベタな設定に、とってもベタなストーリーが展開。そこになんとも"ヨーロッパの田舎"セルヴィアっぽいベタなギャグがいくつも詰め込まれていて……こんなベタベタな話、クストリッツァじゃなかったら作れないよーっていう(笑) いやああ、こればっかりですけど、ほんとに最高でした!
いろいろツボはあるのですが、基本的に見てもらってのお楽しみということで、語るのはガマンガマン。ほんの一言二言だけ……。まず、前述のクストリッツァ的要素=浮遊・動物・音楽はすべててんこもりでした。それにしても、本作に登場する動物たちは、なんというか、かわいそうに(笑) 獣○ネタって、どうもフランス-イタリア-バルカンに多いような気がするんですが、大陸ヨーロッパではけっこう一般的なんでしょうか(まさかね)。そして、音楽はストリボールが担当。これがほどよく抜けて現代的になっていて、ちょっと世代の違いを感じました。そしてかっこよかった。ストリボールは、実は俳優としても出演していて、鉄人兄弟の兄をやっていました。この鉄人兄弟が、私はとにかくもう大のお気に入り。ばかばかしすぎるー。頭まで筋肉でできていて、そして筋肉が鉄でできているとしか思えない。ああ、早くDVD出ないかなあ。そしたら鉄人兄弟の登場するところばっかり何度も見ちゃうのに……さらに、クストリッツァ作品の常連、ミキ・マノイロヴィッチがマフィアのボスで出てました。最後に、あの催眠うずまきはヒチコック「めまい」へのオマージュではないのか?とこっそり思っている私なのでした。ああ、好きなだけに語りすぎちゃったけど、まだ語り足りない……みなさん、ぜひ見てください……それから私と一緒に語ってください……。

アンダーグラウンド [DVD]
黒猫白猫 [DVD]
ライフ・イズ・ミラクル [DVD]

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